選抜決勝(2)名電のバント作戦

倉野監督 温故知新への道

 投手に、投球へ集中させないための揺さぶり。
 ダッシュの連続で、守備陣の足を奪う。
 そして「アウトにしなくてはならない」一塁クロスプレーの場面を作り出すことで
 守備陣を精神的に消耗させる。
 それはあまりに効果的で狡猾な作戦であった。

 接戦において、これは非常に生きてくる。
 一発勝負の甲子園を勝ち抜くために、
 倉野監督はあえて20年前の野球に立ち返ったのだ。
 準々決勝の秋田商業戦。佐藤投手と希望枠を勝ち取ったはずの守備陣は
 手に取るように幻惑され、終盤に痛打を浴び敗れ去った。

 一方で、それはかなり高い確率で容易に相手チームにアウトを献上する諸刃の剣。
 言い換えれば、ミス待ち野球に堕した、ともいえる。

 済美は、わずか一晩のうちに対策を整えていた。
 投手はあえて構えたバットに目掛けて投げ込み、そして打球の処理・カバーリングは野手に任せる。
 これで球数の増加を防ぎ、さらには強い打球を打たせて楽に一塁でアウトにできる。
 こうした対策の基盤はすべて、何万回と繰り返されたであろう投内連携・内野ノックの賜物であることはいうまでもない。

 必然、点差が開き、終盤になればバント作戦を引っ込めざるを得ない。
 済美は大量点のピンチを迎えることなく、中盤を切り抜けた。

 そして、1点差で迎えた9回裏、1死1塁。
 4番、主砲にすら送りバントが命じられた。
 愚直。
 あまりに愚直(バカ)。しかし、スタイルを貫いたことでそれは美学となったといえよう。夏での進化に期待したい。

 ・・・倉野監督は「新しいスタイルの野球」とか言ってたが、
 それはひょっとしてギャグで言っているのか