佐賀北の白昼夢

いまさらながらビデオに録ってた決勝戦をようやく週末に見たのだが。
8回表終了時点で
「おいおい、こっから本当に逆転できんのか?」と思った。なにせここまで佐賀北はわずか1安打2四球、野村の低目スライダーに手も足も出ない。かたや広陵は12安打の猛攻、まいど三塁ベースに常駐。
強烈な正面への当たりをミスなく処理し続ける佐賀北内野陣の踏ん張りにより、差は4点に広がったものの、緊張は辛うじて保たれていた。
8回裏。一死一二塁から野村、痛恨の四球。三者凡退を続けていた制球力が、久々のセットポジションでわずかに狂ったか。
さらに一死満塁、打者井出での押し出しの場面。試合を通して主審・桂は低目に辛く、「誤審」ではなかったが、何より野村の心に焦りを産み、投げ急ぐ要因となったことは判定後の彼の表情から見てとれる。
次打者には佐賀北で唯一の長距離砲、副島が控えていた。判官大好き甲子園の観客による大声援が広陵ナインを呑み込む*1
奇跡のお膳立ては、おおかた、整った。(トモロヲ調)
 
…とはいえホームラン打つか、そこで!?

野村は決勝まで1本のアーチすら許していなかった。高めに浮いた直球のあと、投じられた第3球のスライダーは、魅入られたように腰の高さの絶好球となる。この日唯一の失投。
あとは白昼夢のよう。9回表も一塁走者の暴走*2により、気がついたら「あと一人」に。ゲームセットの瞬間の、佐賀北・久保の惚けた表情と遅れがちのガッツポーズは、優勝を決めた投手のそれではなく、とても印象的だった。
勝者「うそ、俺達勝っちゃったの?」、敗者「俺達がリードしてたんじゃなかったっけ?」、観客までもがキツネにつままれたような優勝。
佐賀北の、あまりにできすぎた開幕戦完封→再試合→延長サヨナラ→大逆転の物語は、二度とないと思われた1994年夏・佐賀商の奇跡を、わずか13年後に鮮烈に塗り替えてしまった。使い古された言葉だが、だから野球は面白い。

*1:済美も3年前にやられたなあ

*2:判定は微妙だったが、1点ビハインドでする冒険ではない